犬のこと ①

私が小学校4年生の冬休み中に私たち家族はまた引っ越した。

やっと社宅を出て念願のマイホームを手に入れたのである。
そこは大阪の北摂地方。

庭はなく2階建ての小さい家だった。
転校した小学校は子供の足で40分もかかるところにあった。
西宮の小学校はその頃すでに給食の牛乳は瓶に入った本物の牛乳であったが、ここは違った。
ダッシフンニュウ。。脱脂粉乳だった。これがとてもまずい。ぬるいこのミルクを給食当番が金物のお椀についでくれるのだが、うすく白く濁るこの液体は恐ろしくまずい。
だから私は「いただきます」の号令がかかると、一番最初に、一番お腹の減っている時に、目をつぶって、息を止めて、一気に飲んだ。涙が出た。

だがこの町にはまだまだ田園風景が広がっていたし、隣近所との付き合いもあり、古き良き日本が残っていた。

本題に戻ろう。
社宅のマンションでは飼えなかった犬を私たち家族はここで飼うことになる。
犬をほしがる妹と私に、父は会社に迷い込んだ子犬を連れて帰ってきてくれた。スピッツが入っているだろう雑種犬で毛がふさふさしていた。白地に茶色のぶちのあるオスのワンコだった。
名前は両親がつけた。
「ボク」 
よほど男の子がホントは欲しかったんだなと子供ながらに思った。
ボクはその頃の通例で外飼である。犬小屋に鎖でつながれた。父はこれが可愛そうだと思ったようで会社から強いゴムの紐を長めに持って帰ってくれ、鎖と交換した。
この強いゴムでボクは体を鍛えた。できるだけ遠くまで行こうとこのゴムを引っ張り、限界まで行くとビヨヨーンと引き戻されていた。

やがてボクは強くて賢い犬になっていった。


つづく